音声で情報を配信することができるポッドキャストは、コンテンツ記事と比べると、リスナーにファンになってもらいやすく、またホストに親近感を持ってもらいやすいことが特徴です。そういった点から、ポッドキャストはリスナーのロイヤリティを上げるために最適な媒体と言えます。

ですが、単に情報を読み上げるようなスタイルでは、リスナーが購読してくれるような番組にはなりませんし、リスナー数も伸び悩むでしょう。本記事では、リスナーに支持される番組を作る際に参考にしたいアプローチ方法として、TOREと言う考え方を紹介します。

TOREとは

TOREThematic/Organized/Relevant/Enjoyable)はバーモント大学のWillian J. Lewis教授により提唱され、アイダホ大学のSam H. Ham教授により発展しました。

観光客に対してガイドサービスを行う、通訳ガイドの仕事を想像してください。通訳ガイドの仕事は、海外からの観光客に対し、訪れた先の観光地(城などの歴史的な建造物や、その土地特有の景色が見れる場所など)の説明を、観光客が理解できる言語で説明し、旅行を有意義なものにすることです。真面目なガイドほど、正確な情報をできるだけたくさん伝えなければと言う思いから、情報だけを羅列するようなガイドになりがちです。

しかし日本のことを詳しく知らない海外の人に、日本の歴史や地理的な情報だけをダラダラと羅列して説明してしまっては、楽しんでもらえるはずがありません。そこで、TOREアプローチでは、テーマを持って観光地を説明し、観光客に関連した要素を盛り込んで、興味を持ってもらうことを大切にしています。

TOREは通訳ガイドの分野に留まらず、人々の行動を変える啓蒙キャンペーンなどでも使用されてきました。ある分野の情報を口頭で人に伝えるポッドキャストの番組作成においても、TOREアプローチを意識することは非常に有益です。TOREアプローチとは、要約すると「独自のテーマを持ち、わかりやすく、聞いている人にとって重要であり、理解するのが楽しいものを作ること」ですが、それぞれの頭文字が意味するポイントを見ていきましょう。

Thematic テーマがある

TはThematic(テーマがあること)を意味しています。ここで言うテーマとは、題目のことではなく、伝えたいメッセージのことです。伝えたいメッセージを最初に明確にしておくことで、そのメッセージを理解してもらうために必要な情報と余分な情報を取捨選択しやすくなり、効果的に説明できるようになります。

例えば「株式投資の成り立ち」について番組を作成するとします。伝えたいメッセージを明確にせずに番組を作り始めると、株式投資の歴史についてダラダラと喋る魅力のないエピソードを撮ってしまいます。

しかし、伝えたいメッセージを「株式投資の成り立ちを学び、投資のコツをつかむ」と設定したとします。そうすることで、現在行われている投資の具体例を出しながら、株式投資の根本の考え方を説明すると言う道筋ができます。リスナーも何のための情報か把握しやすく、集中して聞いてくれます。

題目 「株式投資の成り立ち」
テーマ 「株式投資の成り立ちを学び、投資のコツをつかむ」

Organized 話をわかりやすく整理し構成する

OはOrganized(話をわかりやすく整理・構成する)です。情報や知識をただ羅列するのではなく、わかりやすい流れ(ストーリー)を作ることが大切です。複雑な分野をできるだけ正確に説明しようと思うと、補足情報が多くなり、話が散らかってしまいがちです。伝えたいメッセージを常に意識し、説明する情報を取捨選択しましょう。

また、音源を耳で聞いているリスナーは、一度に多くのことを覚えてはいられません。情報を詰め込みすぎないことが大切です。1度のエピソードでは、要点は4つ以下になるように心がけましょう。

Relevant 受け手に関連がある

RはRelevant(受け手に関連がある)です。番組の内容に興味を持ってもらうためには、想定されるリスナーが持っていそうな知識や経験に関係ある話を入れると良いです。知っている知識が出てくるとぐっと興味が湧きますし、自分ごととして番組を聞いてくれるようになります。

また、想定リスナーだけでなく、万人に共通する話を入れることも重要です。いわゆる「あるあるネタ」です。例えば、家族、健康、命、恐怖などの話は誰もが経験していることであり、話題として取り入れやすいです。これが入っていることで、説明されている内容を想像しやすくなりますし、興味を持って聞いてもらえます。

Enjoyable 楽しい

EはEnjoyable(楽しい)です。意外と見過されがちですが、余暇の時間に聞かれていることが多いポッドキャストですから、楽しくなければ聞いてもらえません。筆者は長年ポッドキャストを愛聴していますが、タイトルから勉強になりそうと感じて聞き始めた番組でも、楽しくなければすぐに聞かなくなってしまいます。

何もお笑い芸人のように笑いをとることだけが「楽しい」ではありません。最も重要なことは、話し手が楽しんで話すことです。複数人のパーソナリティがいる番組では、お互いの仲の良い雰囲気が出ていることも重要です。また、爆笑をとる必要はありませんが、リスナーの心を和ませるようなユーモア・面白さを意識して取り入れることが大切です。

意外と意識されていないと感じるのが、「不快にさせる表現を避ける」という点です。話し手にはリスナーの姿が見えないので、友達同士で話している感覚で人を不快にさせるような言葉を使ってしまうパーソナリティもいます。不特定多数の人に聞かれていることを念頭に、品格や気遣いを持って表現することを心がけましょう。意外と盲点なのがライバル批判です。他番組のことを番組内で悪く言うことは、お互いにとってマイナスです。

音声メディアであるという特性上、うまく表現することが難しいかもしれませんが、動きのある表現を加えることも楽しさが出る有効な手段です。ワインや果物など、食べ物をテーマにした番組も多いポッドキャストですが、的確な表現で紹介してもらえると、想像力が働くため、実際に食べている映像を見るより美味しそうに感じたりします。また、バックパッカーの方の番組で実際に現地に行って収録しているものなどは、臨場感があり非常に楽しめます。

まとめ

本記事では人気のポッドキャスト番組を作るためのアプローチ、TOREについて紹介しました。番組の構成を考えるとき、実際の収録、その後の編集作業の際に、TOREのポイントについて意識するよう心がけてみてください。